行政法
執行停止と仮の救済
裁判所の執行停止は申立てが必須で職権ではできないのに対し、審査庁は上級行政庁または処分庁なら職権でもできます。「重大な損害」と「償うことのできない損害」、消極要件と積極要件の書き分けが最大の落とし穴です。
要点 8件・確認問題 8問
執行停止の要件
執行停止の積極的要件は、本案訴訟が係属していること、および処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることである(行政事件訴訟法25条2項)。重大な損害を生ずるか否かの判断では損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質をも勘案する(同3項)。消極的要件は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときである(同4項)。行政不服審査法25条4項も同じ枠組みである。
覚え方積極は重大な損害と緊急の必要、消極は公共の福祉と本案の理由なし
01重要暗記項目
執行停止の要件
執行停止の積極的要件は、本案訴訟が係属していること、および処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることである(行政事件訴訟法25条2項)。重大な損害を生ずるか否かの判断では損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質をも勘案する(同3項)。消極的要件は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときである(同4項)。行政不服審査法25条4項も同じ枠組みである。
ひっかけ注意改正前の「回復の困難な損害」への差替えが最頻出。仮の義務付け・仮の差止めの「償うことのできない損害」との取り違えも狙われる。
義務的執行停止
審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は執行停止をしなければならない(25条4項本文)。ただし公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときはこの限りでない(同項ただし書)。重大な損害を生ずるか否かの判断では損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質も勘案する(同5項)。
ひっかけ注意「償うことのできない損害」「回復の困難な損害」という旧法や仮の義務付けの文言に差し替える肢が典型。条文は「重大な損害」である。
執行不停止の原則と執行停止
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない(25条1項)。停止を求めるには申立てによる執行停止決定が必要であり、裁判所が職権で執行停止をすることはできない。執行停止の内容は処分の効力の停止・処分の執行の停止・手続の続行の停止の3種で、このうち処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合にはできない(25条2項ただし書)という補充性がある。
ひっかけ注意行政不服審査法の執行停止と混同し「審査庁は職権でできるから裁判所も職権でできる」と誤らせる肢。裁判所は申立てが必要である。
執行停止の手続
執行停止の決定は疎明に基づいてされ(25条5項)、口頭弁論を経ないですることができるが、あらかじめ当事者の意見を聴かなければならない(同6項)。申立てに対する決定には即時抗告ができるが(同7項)、その即時抗告には決定の執行を停止する効力がない(同8項)。管轄は本案の係属する裁判所である(28条)。執行停止の決定が確定した後にその理由が消滅し事情が変更したときは、裁判所は相手方の申立てにより決定をもって執行停止の決定を取り消すことができる(26条1項)。
ひっかけ注意「即時抗告があれば執行停止決定の効力は止まる」とする肢。25条8項が明確に否定している。事情変更による取消しを職権でできるとする肢も誤りである。
仮の義務付けと仮の差止め
仮の義務付け・仮の差止めの要件は、①その処分がされないこと(又はされること)により生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること②本案について理由があるとみえること、である(37条の5第1項2項)。公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときはできない(同3項)。執行停止の「重大な損害」より厳格な「償うことのできない損害」が要求され、本案の見込みも積極的要件として要求される点が特徴である。
ひっかけ注意執行停止の要件(重大な損害・本案について理由がないとみえるときは不可)とすり替える改変が最頻出。損害要件の重さと本案要件の向きを対比して覚える。
非申請型義務付け訴訟の要件
非申請型(直接型)義務付け訴訟の訴訟要件は、①一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること②その損害を避けるため他に適当な方法がないこと(補充性)③当該処分を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること(37条の2第1項・3項)である。重大な損害の判断では損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質をも勘案する(同2項)。原告適格の判断には9条2項が準用される(同4項)。
ひっかけ注意重大な損害だけで足りるとして補充性を落とす肢が典型。違反建築物への是正命令など規制権限の発動を求める近隣住民の訴えがこの類型の代表例である。
差止訴訟の要件
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起することができるが、その損害を避けるため他に適当な方法があるときはこの限りでない(37条の4第1項)。すなわち補充性はただし書の除外事由として規定されている。重大な損害の判断枠組みは執行停止・非申請型義務付けと同じである(同2項)。原告適格は法律上の利益を有する者に限られ、判断には9条2項が準用される(同3項4項)。
ひっかけ注意補充性が本文の積極的要件か、ただし書の除外事由かという条文構造の違いが問われる。差止めではただし書に置かれている。
内閣総理大臣の異議
内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合および執行停止の決定があった後に、裁判所に対し異議を述べることができる(27条1項)。異議には理由を付さなければならず(同2項)、理由においては処分の効力を存続する等の必要がある旨を示す(同3項)。異議があったときは裁判所は執行停止をすることができず、既にした執行停止の決定を取り消さなければならない(同4項)。異議はやむを得ない場合でなければ述べられず、述べたときは次の常会において国会に報告しなければならない(同6項)。
ひっかけ注意「裁判所は異議の理由の当否を審査できる」とする肢。裁判所に審査権はない。報告先を「直近の国会」とする改変も狙われる。
02正誤を分ける確認順
- 1行政不服審査法と行政事件訴訟法のどちらの話かを分ける。裁判所は申立てが必要、審査庁は立場によって職権でもできる
- 2積極要件(本案の係属・重大な損害を避けるため緊急の必要)と消極要件(公共の福祉への重大な影響・本案について理由がないとみえる)を当てはめる
- 3求める措置を選ぶ。効力の停止は、執行の停止や手続の続行の停止で目的を達せられる場合にはできないという補充性がある
03覚える数値
- 執行停止 重大な損害を避けるため緊急の必要
- 仮の義務付け・仮の差止め 償うことのできない損害
- 内閣総理大臣の異議 次の常会で国会に報告
04本試験の引っかけ
- 「重大な損害」を旧法の「回復の困難な損害」に差し替える肢、仮の義務付けの「償うことのできない損害」と入れ替える肢
- 執行停止の要件を「本案について理由があるとみえるとき」とする肢。これは仮の救済の積極要件で、執行停止では裏側から消極要件として規定される
- 内閣総理大臣の異議の理由の当否を裁判所が審査できるとする肢。審査権はなく、異議があれば執行停止はできない
06一次情報
- 根拠
- 行政事件訴訟法
- 基準日
- 2026年4月1日
- 解説
- 編集部による書き下ろし。過去問本文は転載していません。
問題演習
執行停止と仮の救済の○×一問一答
1/8問解答 0・正解 0
行政法重要度 S頻出度 23/24(編集部の目安)
執行停止の要件
執行停止をするためには、処分、処分の執行または手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があることを要する。
全620問から科目・重要度で解く
行政法240問、民法180問を中心に6科目を収録。